ベルルスコー二首相、いよいよ離婚か、泥沼化へ。

昨日の労働者の集まりで(と書くと、なんだか今にもコマンダンテチェ・ゲバラの行進曲を、拳振り上げ歌いそうだが、実は料理好き、ドルチェなんかも手作りしてしまう、みんな仲良しの気のいいおじさんやおばさんばかりです)、ベルルスコー二首相のこの数日の動向が、ほんの少し話題になった。それは、このところとどまるところを知らない全速力で失言、暴言を繰り返していたベルルスコー二首相に、いきなり反撃、急停車させた首相奥方ヴェロニカ様のことであった。ちなみにここ数日、シルビオ氏は、フィアットクライスラーと提携したことを、まるで自分の手柄のように喜んでいるのだが、フィアットのモンテゼンモロ氏(現在はマルキオーネ氏がCEOだが、やはり社会的にインパクトのある動きでイメージに浮かぶのはモンテゼンモロ氏でしょう)とシルビオ氏はあまり仲良くもなく、過去にたびたび衝突しているし(しかし、両者とも巨大資本家であるから、絶対的な喧嘩はしないのだが。頭いいからね)、この提携に氏が深く関わっていたとはあまり考えられない。


地震の被災地ラクイラで今夏のG8を開催する』という意表を突く構想で、例の素晴らしいBigマネージャーぶりを発揮して、世間の注目を浴びてもいたが、その注目と同時に最近のベルルスコー二首相の暴言は、暴走するところまで暴走し、限界を超えていた。「だいたい左翼の女性は、ひどい格好で現れるし、そのうえ変な匂いがする(すごい!女性にこんなこと言うなんて)」なんてことまで平気で言っていたらしい。いいたい放題、お調子にのるだけのっていたわけだ。

http://www.afpbb.com/article/politics/2598516/4091780
そんな有頂天のベルルスコー二氏に一撃を加えたのが、奥方ヴェロニカ様。数日前『シルビオは女性に対する尊厳がない。断固抗議する』と発言したのが、ことの始まりだった。

シルビオ氏の二度目の奥方、ヴェロニカ様は元女優。かつて彼女の舞台を見たシルビオ氏が夢中になり、口説き落としたという伝説がある。美しいうえに才気煥発、しかも文才もあり『強く、独立心のある女性』として一般に知られてもいる。しかし奥方である彼女が、なぜマスコミを通じてこのような抗議をしたか、その背景には以下のような謎めいたシルビオ氏の行動があったのだ。


先日ベルルスコー二首相はプライベートで、ナポリの郊外(その地域というのはカモッラ、すなわちナポリマフィア地域としても名高かったりする)のクラブで開かれた、ある18歳の美少女の誕生日パーティに出かけた。まず、郊外のクラブで開かれた、いち市民の誕生日パーティに、一国の首相が突然のこのこ現れたことに土地の人たちも仰天し、たちまちその噂は知れ渡ることとなった。

http://www.corriere.it/politica/09_maggio_05/avvenire_attacco_berlusconi_b034c6a6-3949-11de-ab3d-00144f02aabc.shtml


「なに? その美少女っていうのは隠し子なの?」「いやいや、少女の父親がクラクシー(かつての政治的大スキャンダルの中心人物。今のイタリア外務省の副大臣はこの人の娘だ)の運転手だったらしい」「若い愛人じゃないの?」などと言う噂は瞬く間に風に乗り、ミラノで、「イタリア女性の権利について」日々検討するヴェロニカ様の耳に届くこととなったわけだ。


ヴェロニカ様はただでさえ、このところ怒り心頭だった。間もなくヨーロッパでは、ヨーロッパ議会のための選挙が行われるが、シルビオ氏陣営の選出した候補者というのは、テレビのバラエティショーに出演している可愛い子ちゃんタレントや、南イタリアの若い、普通の(いったいどうやって見つけてくるのって感じだが)、しかしとりわけ容姿のすぐれた可愛い女性ばかり。最近その可愛い子ちゃんたちに少しぐらいは政治を理解させとかないとまずいかな、と、外務省で政治のお勉強特訓コースを開いていたという。そしてこれはもちろん下心があってのことだろうという噂。先々、ブリュッセルに行ったなら、このたび当選して(したら、の話だが)議員になった可愛い子ちゃんたちが大挙してお出迎えしてくれるはず。退屈なブリュッセルの会議に参加しなくちゃいけないときもこれなら楽しめる。こむずかしい顔をした各国首脳や生真面目な議員たちとつき合うのに辟易しているシルビオ氏の、どんより天気のブリュッセル、OH SOLE MIO 夢のハーレムへスイッチ!構想だったのだ、とわたしの労働者仲間たちはわいわい語っていた。


つまり美少女誕生日パーティ事件がきっかけとなり、これら一連の、とても先進国の首相とは思えぬ、ふざけたシルビオ氏の態度は、業を煮やしていたヴェロニカ様の逆鱗に触れた。そしてついに怒り爆発! このたびの公開抗議となったわけである。ヴェロニカ様は「自分の息子、娘たちの誕生日パーティにも現れないくせに、ナポリくんだりまで出かけて他人の誕生日パーティに出席したなんて! しかも可愛い子ちゃん議員構想だなんて、女性蔑視もはなはだしい。今度という今度は許せない! 恥を知れ!」と、シルビオ氏を一撃で打ちのめしたのである。


この抗議ののち、シルビオ氏はブリュッセル、夢のハーレム構想を断念。すぐに可愛い子ちゃん議員候補を解雇したが、「うちの娘がヨーロッパ議会の議員になるかも」と夢想していたその可愛い子ちゃんの父君のひとりは、激怒してシルビオ氏の自宅前でシャツに火を放って抗議したというエピソードも。


件の18歳美少女の誕生日出席の一件については、いまのところ詳細は明らかになっていないが、本人は「別にこそこそ行ったわけではなくて、堂々と出かけたのが何がいけないんだ」と言っているそうだ。


ともかく、怖いものなしにも見えるシルビオ氏だが、奥方にだけは頭が上がらない。そういえば去年の選挙の際、左翼の政党が「対抗馬としてヴェロニカ様を!」という案を出していたが、この国ではまんざら冗談ではないかもしれないな。


どうでもいいことだけれど、その後、ヴェロニカ様はシルビオ氏との離婚へ向けて、弁護士と共に動き始めたようだ。ここ数年、ヴェロニカ様は『政治哲学』を学んでいたようだから、夫の振る舞いにどうにも我慢できなくなったのだろう。お察しします。
http://www.repubblica.it/2009/04/sezioni/politica/elezioni-2009-2/veronica-divorzio/veronica-divorzio.html


さてさらにその後、ベルルスコー二氏は、とても傷ついているけれど、うちの奥さんに、あんな真似をやらせたのが誰かは分かっている、的な発言もしている。


http://www.ilsole24ore.com/art/SoleOnLine4/Italia/2009/05/veronica-lario-divorzio-berlusconi-conferma.shtml?uuid=2c6a0cf4-37dd-11de-8b8b-c3506aebf946&DocRulesView=Libero


(ところがこのサイトは後日閉じられた。なぜ? コメントだけになっていて、そのコメントのなかに、ヴェロニカ様をいますぐに聖人に! というコメントがあって笑ったけれど、のちにそれも削除されていた。バチカンの前ですばらしい業績のあった聖職者を「聖人」に認証しろ!とシュプレヒコールが上がることがある。たとえば偉大なパオロ二世など。ジョバンニ パオロ スビト サント!(パオロ法王をすぐに聖人に!という具合)


ずいぶん昔からヴェロニカ様の愛人の存在(ヴェネチアのある左翼政治家)が囁かれていたからね。これは痴話げんかのように見えるけれど、実は政治闘争って感じもする。時代がかってるなあ、奥方の反乱による権力闘争なんて・・・・ボルジア家の権力闘争みたいだ。


そのうえ、さらにどうでもいいけれど、首相は「ポルタ ポルタ」という政治討論バラエティ番組に出演して、すべての経緯を詳細に説明し、この一連の報道は左翼系のメディアと政治団体のでっちあげというような話をしていた。氏の証言を聞いていると、18歳美少女との噂というのも、どうも作為的に作られた話のような気もする。いずれにしても、やっぱり政治闘争の一端のようだ。左翼政党も政権奪回のためにこんな手を使うなんて(もし奥方を使ったのなら、ひどい話だ)、なんて低俗なレベルの闘争だろうと考え、ばかばかしくなった。どっちもどっちだ。勝手にしてください。