居候のおじさんもPro-Tibet!

実はここ4日間ほど、スペイン人の芸術家が居候していた。今はフィレンツエ辺りにいるらしい(いつも動いているからよく分からない)、昔から知っているおじさんだが、四日前突然現れて、「一晩だけ泊めてよ」というので、「まあ、一晩だけだったらいいか」と思い、「みんな忙しいから、一晩だけだよ」と言うと、ちから強く「もちろんさ、一晩だけに決まってるじゃないか」と断言する。その自信に満ちた答えを人のいいわたしはすっかり信用していたが、いっこうに出て行く様子なく、2日経ち、3日経ち、「どうしよう」と同居人と話し合っていたところ、今日の朝、コーヒーを飲みながら、「あ!」と何かを思いついたように立ち上がると、荷物をまとめ、「あばよ」とどこかへ行ってしまった。われわれは狐につままれたように、茫然と後ろ姿を見送った。


しかしこの4日間、ちょっと困ったのは、わたしがコンピュータに向かってブログを書き始めると、必ず彼がそばにやってくることだった。初日、何書いているの? と聞くので「チベットのことだ」と答えると、「ああ、チベット」と呟き、しばらく下を向いている。どうしたことかと顔を覗き込んでみると、彼は泣いていたのだった(嘘のようだが本当の話です)。「ひどい話だ! いいか、これは絶対解決しなければならないぞ。われわれが無視しちゃいけないぞ。いいことだぞ、ハリシュマ。君がチベットのことを思うのはいいことだ」と何度も深く頷き、机のそばにある本棚に置いているダライラマ法王の写真に向かって、両手を合わせて拝むのだった。あまりに急なこのスペイン人の芸術家のおじさんの反応にわたしも困ってしまったが、まあ、ここにもチベットのサポーターがいた、と嬉しくもあった。


ところでこのおじさんはいつも二匹の「かたつむり」とともにあちらこちらを移動している。嘘のようだがこれも本当の話だ。かなり大きなかたつむりを、空気穴を開けたちいさいガラス瓶のなかにキャベツや人参の欠片などと一緒に入れて、デイパックにぽいっと投げ込んでふらふらとあちこちを渡り歩いているのだ。ときどきそのガラス瓶をデイパックから取り出しては、「可愛いだろう」と人に見せびらかす。実際、そのかたつむりは慣れていて、触っても貝殻(っていうのかな)のなかに縮こまらない。しかしかたつむりっていうのは慣れるもんなんだね。


彼の素性はあまり定かではないのだが、スペインがフランコ政権下のときhttp://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B7%E3%82%B9%E3%82%B3%E3%83%BB%E3%83%95%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%82%B3「もうどうにも堪らなくなって、アムステルダムに家出した」ときから、エジプトやインドやモロッコ、そしてイタリアなどを長く放浪しながら写真を撮ったり、絵を書いたり、映画監督のアシスタントをしながら暮らしていると言う。お母さんがイタリア人でイタリア近代文学の父、「許嫁」のマンゾーニの末孫だという説もあるが、定かではない。われわれ友人のなかでも、特に変わった人物だと評判の高い芸術家だ。世の中にはいろんな人がいるんだなあ。


こんな不思議な日記もつけている。マヤカレンダー日記なのだそうだ。