夏と修羅

数日前、久々に怒髪天を抜く、というやるかたない怒りに捕われ、大声で抗議した挙げ句に、声を失ってしまった。決死で抗議をした内容に関して、わたしは決して間違っていないと確信しているが、このような極端な怒りというのは、心身ともにいちじるしくエネルギーを消耗し、自分自身を傷つける。しかも折角今まで、なんとかうまく調和してきた人間関係を破壊してしまうから、他の人にとってもマイナスなエネルギー以外、なにひとつもたらさない。そんなことは百も承知だったが、どんな歌を歌っても、ヒイヒイという音が喉から漏れるだけというほど、声が嗄れる大声を挙げての抗議をしてしまい、ここ数日ぐったりと悲しみに沈んでいた。修羅の果てない悲しみ。生きることは大変だ。


もとい。とはいえ、わたしは自分の怒りは正当であると心底思っている。他人の弱点(わたしの場合、母国語でない言語を喋っているというハンディキャップあり)につけこんで巧みに話をすり替えて、どう考えても筋の通っていない理論をふりかざし、(わたしはその理論に筋が通っているかどうか、日本人、イタリア人、フランス人の三か国の人々に尋ねてもみたが、みな口をそろえて、それはあなたが正しいというので、民主的にもわたしは正しいと確信する)自分の都合のいいように、利益を独り占めしようとする狡猾さは、わたしは嫌いだ。わたしから利益(有形無形に関わらず)を盗むだけならまだしも、わたしが関わっている大切な人々にも迷惑をかけようとしたことで、わたしはとても悲しく腹立たしかった。イタリアで生活するのってなんだか楽しそうで素敵、なんて思われることも多いが、どうしてどうして。外国で生きるってことは、結構難しいことなのだ。陽気でおしゃべり好きで、ふざけてばっかりいるイタリア人のなかにも、手に負えない、ずるくて、歪んだ性格の人間はいる。世界中、メンタリティの違いや表現の違いはあっても、基本的な心理と感情生活には、そうそう大きな違いはないというのが、いままでイタリアにいて学んだことだ。


だが、怒りからはやはり何も生まれない。したがってわたしは反省する。今日はまず、怒りの対象になっている人物から距離を置いて心を鎮め、そして今後の傾向と対策を、良心的に考えることにしようと、ガラガラ声で『言挙げ』をして決心した。このように、なるべく落ち着いて、良心的に未来を構築しようとする態度を教えてくれたのは、わたしのチベットの友人たちである。ありがとう、チベットの人々。あなたたちが傍にいなければ、わたしはいまごろ憤怒の海で溺れ、修羅の道をまっしぐらに歩いていたところだ。


そういうわけで、ここ数日は、頭痛がするほどの暑さに加え、心理的な重圧感で、ずるずると地を這うように歩く毎日であったが、言挙げしてから多少すっきりして、歩調も幾分軽やかになった。そしてさきほど近所のバングラのお店でマンゴを買って、さらに気分がよくなった。それを冷蔵庫でキンキンに冷やして食後にいただけば、ほぼ元通りに元気になることと思われる。


ところでひとつ前に書いたパユルの記事のことだが、ポン、と脈絡なく吹き出してきただけで、その後、何の動きもないようだけれど、一体どういうことだろう、と不思議に思う。まあ、ともかく、このような記事があったということは忘れずにのちのちの動きを観察していこう。


今日は中国とアメリカがG2協議をしていて、明日、『経済と環境問題』に関する共同声明を出すようだが、オバマ大統領の動きを見ていると、ボーダーレスの時代の政治というものは、まさにこういうものだ、と感心もする。オバマ大統領はダライラマ法王との会見をもアプローチしているようだし、このような「対立のない世界を実現しよう」、「もはや世界は運命共同体なんだよ」、という姿勢を中国にもぜひ学んでほしい、と思うのだ。そしてそんな世界にあって、チベット文化は明日の中国をしっかりと支える有益な精神文化なのだから、大急ぎでチベット問題を解決し、さらにウイグル問題、内モンゴル問題を解決すべきである。そうすれば、シンボリックな意味で中国の株が上がるだけではなく、本当に確固とした国家基盤ができあがるだろう。不満が渦巻く社会を武力で押さえ込むには限界があるし、解決できないまま、その問題を無理矢理内に秘めているとやがて発酵して爆発する。


などと考えつつ、ネットで新聞読んでいると意地悪なコリエレにこんな記事。

ASOはマンガでキャンペーン
というタイトル。ご丁寧に日本語のままでアニメまでアップされている。

http://www.corriere.it/esteri/09_luglio_24/aso_manga_video_youtube_f8e8bf74-783c-11de-96fb-00144f02aabc.shtml

マンガに狂信的な(ファナティコという単語は、ネガティブに使われることが多い。53歳のアニメ大好きの自民党総裁は、みたいな出だしだった)麻生さんは、マンガで政治キャンペーンを展開している。マンガでプロパガンダという記事でした。すでに200,000件のアクセス!
わたしはマンガはポストモダン文学だとも言える面白いものもあると思うし、すごいなあ、とも思う作品もあるけれど、正直なところ、このアニメは古くさくて、ださくていかんなあ、と思った。どうせつくるなら、本格的なアニメでもうちょっとかっこよくつくればいいのに。電通がつくったのかな。

ちなみに、根拠のない自信に人生を預けられますか? というスローガンは、イタリア語だと、こんな風になります。
Metteresti la tua vita nelle mani di chi fa promesse senza fondamento?