リチャード・ギア氏を断固として応援する!

下院議会でチベット会議の開会式が行われた日、下院の前のモンテチトリオ広場をうろうろしていると(と書くと何か怪しげな雰囲気だが、その日のわたしには、わたしなりのささやかな役割があったのです)、高校生くらいの子供たちが、カメラを片手にやたらに広場に集まっているのに気がついた。あれ〜? 何でだろうと思ったが、イタリアの子供というのは、意外に政治に興味を持っていたりして驚いたりすることがあるので(特に大学生は明確な意見を持っていて、わたしのように右でも左でも別にどうでもいいや。チベットを応援してくれる政党が何よりだ、と思っている外国人は簡単に論破される)、別段気にもとめなかった。見学かもね、と軽く思ったぐらいだ。


しばらくして、広場を横切ろうとわたしが歩き始めたその時だ。突然、きゃあ、という悲鳴のような声があたりに響いたかと思うと、その子たちが突然群れをなしてわたしの方に突進してきたのだ。わたしのほうこそヒイ、と悲鳴をあげたが、あれよあれよという間にもみくちゃにされ、いったい何が起こったのか何がなんだかさっぱり分からず、一瞬目の前が真っ黒になった。とその時耳元で「リチャード・ジアー(*1)」という声が聞こえて、はっとする。そしてようやく合点がいったのだ。あ、そうか、この子たちは会議に参加しているリチャード・ギア氏を一目観ようと広場に集まっていたんだ。日頃から注意散漫のうえ、ど近眼のわたしは氏が広場に降りたことにちっとも気がつかなかった。あれあれ、どこだろう、と周りを見渡すと、わたしのすぐ1メートルほど先に、プラチナブロンドの素敵なギア氏がにこにこ笑いながら、群れをなして押し寄せる子供たちと握手していた。かっこよくて、思わず見惚れた。


(*1)ちなみにイタリア語ではGereの綴りを間違ってジアと発音する場合がよくある。そのGの発音で、他に例をあげれば8GBと表記した場合、ほとんど誰もが、8ジガバイツと発音し、「すみません、16ギガバイツのipod見せてほしいんですけれど・・・」と電気屋さんで尋ねると、「16ジガバイツ、ジガって発音するんだよ。イタリア語、もっと勉強しないとだめだよ」と叱られる。これは失礼、そうそう、そうでしたね。ジガですね。それです。その16ジガバイツのipod見せてください、とわたしも素直に発音をイタリア風に正すのだ。Do as Romans do. 郷に入れば郷に従え、である。


そんなわけでギア氏を近くでお見かけし、日頃のその素晴らしいチベットサポートを心から尊敬するとともに、いわれのない親近感を抱いていたところ、昨日の朝、先に起きてSKYニュース24を観ていた同居人が、「リチャード・ギア、ニュースで批判されているぞ」と言うので、慌ててTVの前に座る。
で、この記事です。Il sole 24ore電子版に短い記事が載っていたので、以下にざっくり簡単に意訳することにします。

http://www.ilsole24ore.com/art/SoleOnLine4/dossier/Italia/2009/commenti-sole-24-ore/03-dicembre-2009/Richard-Gere-a-Copenhagen%20.shtml?uuid=0457bcba-dfdb-11de-bb10-a6c8fe24412b&DocRulesView=Libero&fromSearch  

サミットの「理論」と「実践」/コペンハーゲンのリチャード ギア


ニューヨークから北に車を走らせて約1時間の田園地帯にベッド&ブレックファーストを建てる際、200本の樹木を伐採するための許可をリチャード・ギア氏はダライラマから得たのだろうか。多分許可は得てないだろう。確かなのは、リチャード・ギア氏はWestchesterの伯爵領の持ち主に森林を伐採するための許可を得てはいなかったということだ。その時点まで彼の計画はうまくいっていたというのに、リチャード氏がきちんとした手順を踏まなかったのは残念なことだ。彼は古い農地を買い取り、ゴージャスな別館に住むために建物を修復し、そこを訪れるツーリストにリラックスした時間を提供しようとしていた。厩舎をつくるために許可なく周囲の樹木を伐採するまでは、彼は完璧な環境保護主義者として、その周辺の人々からも良い評判を得ていたのだが・・・。

この件でギア氏は250本の無許可の樹木伐採の罰金として5万ドルを支払うことになる。確かにこの罰金は、それほど法外なものでもないが、インテリの環境保護アクティビストとしての氏の清いイメージはかなり損なわれることになるだろう。しかし考えてもみよう。コペンハーゲンの環境サミットのテーブルには何人ものリチャード・ギア氏が座って論議することになるのだ。つまり母親に、ジャムを食べたでしょう、と言われた子供が両手にべっとりジャムをつけていながら「食べてないよ」というのと同じで、偽善的なメンバーがサミットをリードするということだ。自分の家(領土)では好きなだけ環境破壊を行うくせに、他人を批判する、というような参加者によってコペンハーゲンのサミットは開催されるということだ。


短い記事なのに随分辛辣に、しかも皮肉っぽくギア氏を批判する表現のうえ、環境サミットの参加者のメタファーにするとは!(だって中国主席も出席するんじゃないの? サミットって。オバマ大統領は出席するみたいだけれど・・・)と思った。

基本的にメディア一般、グッドイメージの著名人に意地悪で、常に何かネタになりそうなほころびを見つけて攻撃しようとするが、il sole 24oreのこの記事もその論調で、けっこう信頼している経済紙なので、がっかりした。もちろん、無許可で樹木を伐採したことの責任は所有者であるギア氏にあるのは当然だと思うが、ギア氏のように『俳優』という職業を持ちながら、常に海外であちらこちらの会議に出席しなければいけない多忙なアクティビストが、建設中のB&Bの工事の課程すべてに立ち会えるわけはないし、非常に高い確立で、森林の伐採に許可を取る必要があることを知らなかったとも考えられる。あるいは彼自身知らないうちに、工事に携わる人々が「これ、邪魔だ。切っちゃおう」と勝手に伐採したのかもしれない。それを、樹木伐採! 無許可! と今までの善行がすべて覆されるようなレトリックでのこのような報道、メディアの大げさな反応に、わたしはちょっとした悪意を感じるのだ。さらに朝のテレビのニュースでは、かなりの批判論調だったので、ああ、またか、とマスメディアの「何でも大げさに騒ぎ立てる」姿勢にうんざりした。この、ちょっとしたことを驚くほど大げさに報道する姿勢は、どの国も一緒でもある。しかしだいたい報道しているジャーナリストたちは、ちゃんとゴミを分別して捨てているのだろうか。他人のことなど眼中にないイタリアのゴミ分別は絶望的だよ。あなたの両手にもジャムがついているんじゃないの、とわたしは言わせていただきたい。


ところでそのギア氏だが、チベット会議のあと、11月29日放送のChe tempo che fa という人気のあるトークショーに出演したが、イタリアのメディアではあまり報道されなかった今回の下院議会でのチベット会議が非常に有意義であったということをまず最初にきちんと言及したあと、毛沢東チベット侵攻を奨めたのはスターリンだったという証拠ドキュメントが発見され、それが検証されつつあることにも触れるという、大変に興味深いトークショーであった。
実際、氏の清いイメージはこんなことぐらいでは、決して損なわれることはないのである。