チベット医学と西洋医学の接点2

さて、チベット医学を学び、毎日の治療に生かしていらっしゃるPagliaro先生の記事の題名は、La meditazione in oncologia、『腫瘍学における瞑想』と訳しておく。


腫瘍学とは、癌をはじめとする肉腫の医学的研究のこと。詳しくは以下のWikiを。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%85%AB%E7%98%8D%E5%AD%A6


『腫瘍学における瞑想』ー癒される心、回復する身体 

われわれの存在それ自体、われわれの思考、つまりわれわれの心が生んだもの。牛の歩みに続く牛車の車輪のように、われわれのすべての言葉、行動は苦悩に源を発する不安に満ちた思考から生まれる。(仏陀


たくさんの意識、たったひとつの意識
生物学と医学は、1800年代の物理学に基盤をもっていて、有形ではないもの(目には見えないもの)を実体のあるものとして捉える習慣がない。現代の物理学においては、状況はちょっと違う[・・](省略)心(意識? 原文はmente)は物質ではないというのが自然の状態であるが、その形のないものが、現実の世界に物理的に変化を及ぼすことができる。今現在、生命の科学は、それを認識しはじめなければならない。(Margenau 1984)


これはエール大学の物理学者Henry Margenauの言葉だが、現在の医療は決定論的で単純化された治療に終始しているということをうまく例証している。(これは従来の治療の方法が機械的だということだと思います)しかしここ数年、Margenauが熱望した変化が訪れ、それが受け入れられ、現実的になってきた。それは、以下の要素に裏打ちされた、非常に力強く、明瞭な、『健康』に関するdisciplineの変化である。


● 今まで無批判な分野であった医療の分野の企業主義的な対応をより良心的に変えていくべき、と望む声が日に日に高まっている。また無機質で非人間的、患者と患者の家族に対する優越的で官僚主義的な医療はもう終わりにしなければならない。

● 専門分野を超えたロジックを使い、より細分化した治療方法を用い、一人の人間、健康、治療、生命をホリスティックな視野で新たに捉え直し、従来の病に冒された部分のみを治療する『機械を修理するような』治療を再編する必要性がある。

● すべての人々が望む『幸せな状態』へ導くための、また人々を苦痛から解放させるための医師の対応、そして行動が必要であるとともに、『慈悲』のコンセプトに焦点を当て、患者の精神性をラディカルに変化させる内面の健康のために尽力し、よりよい治療をするという、医学の新しい倫理を早急に確立させなくてはならない。

(わあ、お医者さますべてにこのような意識であって欲しいなあ)


この変化は、従来の非常に厳格に生物学的で、部分的な治療の次元から、病気と健康のコンセプトを他次元へと変容させる道のりであり、また生理学と生化学のプロセスを結びつけていこうとする表象(現れ)であり、人体そのものと、「個人」を鋳造する社会との複雑な相互作用にとどまらず、個人とマクロシステムの相互作用をも結びつけて考えていこうとする表象(現れ)でもある。


(難しい! ほぼ直訳しています。前半はローカルな治療から、ホリスティックな治療へ変えていくために、病気と健康のコンセプトを変えていこうとしている状況、という意味だが、後半はそれとともに、精神と身体的オーガニズム、そして個人と社会、さらには個人とマクロコスモスをも結びつけていこうとしている状況、ということだと理解するが、間違っていたらご指摘いただきたいと思います)


そういうわけで、今までは分離されて研究されていた「人間」、「健康」、「病気」の研究を、われわれの惑星に住むすべての生物、また無生物の間のインターコネクション(相互の関連)、インターディペンデンス(相互依存)のコンセプト(仏教のコンセプトですよね)を用いながら、ホリスティックな視点により、再構築しようとしているのである。


この現実の新しい表象はまた、もう一つの重要なコンセプト、『エネルギー』を導きだす。


実際、このホリスティックモデルは、われわれがその一部を成している生態系、生物圏、宇宙の次元とマクロコスモスの関係を指すことを理解させる。あるいはBohmの定義する『明瞭な秩序』(生態系、生物圏、宇宙)そして、『暗黙の秩序』(マクロコスモス)、エネルギーの次元と説明したほうがいいかもしれない。(Bohm 1980)


仏教者たちと同様、(彼らはそれを「微細な意識」と呼ぶが)もうずいぶん長い間、量子物理学者が宣言するように、われわれ生きとし生けるものは、われわれの周りを取り巻く環境すべてとともに、永遠で無限(マクロシステムの最も微細な次元)のエネルギーで複雑に織られた織物の一部なのである。


マサチューセッツ工科大の著名な物理学者Schroederはこう言う。物質であるすべてのものは、即ち意識(エネルギー)であり、また意識(エネルギー)であるすべてのものは、即ち、物質でもある(Schroeder 1998)
(色即是空!)

全ては繋がり、相互依存している。これは人体の器官のレベルでも、意識(エネルギー)のレベルでも、量子のレベルでもそうなのだ。量子のレベルでは、互いが影響し合い、その状態を変容させる。人体の器官のレベルでは、全体として均衡を保つことなく、またそれぞれの器官が分離した状態でもなく、それぞれの器官が互いに影響しながら躍動、変化する。


人間は自分自身、または自分の思考や感情が、他とは全く連動していないように感じるが、それは意識(Coscienza 表層意識と訳す?)が作り出した幻想である。われわれは生きとし生けるものすべて、そして全自然の美しさを両手に抱く『慈悲』とともに、視野を大きく広げなければならない(アインシュタイン1959)


ほとんど直訳で、日本語そのものがあまりこなれていないが、先生の書かれた記事の冒頭は、こんなに美しいお話で始まった。先生のような科学者が全てのものが繋がって、相互依存しているというんだから、われわれも仲良くしたいなあ、というのが、ここまで訳した感想です。単純ですが・・・・・。